鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 を見た(ネタバレ有り)


  鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎は水木しげる先生原作によるゲゲゲの鬼太郎の鬼太郎が誕生するまでの前日譚を描く映画で、昭和の財政界を牛耳っていた龍賀家の当主龍賀時貞が死去した事をきっかけに、血液銀行に勤務していた主人公の水木が龍賀一族が暮らす哭倉村へと向かう。


  昭和30年代が主な舞台の作品なのだが、時代感が良い意味で反映されていて、水木のスーツがかなりゆったりめなシルエットだったり、電車内で子供が咳き込んでいるにも関わらず周りの乗客は平気でタバコを吸ったりする。

  特に後者のタバコのシーンは今の時代で考えたらまずあり得ない風景がそこにあって、昭和の何と言うかとてもおおらかな時代性を感じた。自分は平成産まれだから昔の映像を見たり想像したりする事でしか昭和を感じることは出来ないのだけど。

  喫煙者である筈の水木は子供の咳き込む声を聞いて吸おうとしていたタバコを吸うのを躊躇うというさり気なく水木の人間的な部分に好感が持てる描写を描いてくれるおかげで嫌な印象を持つこともなく、水木のキャラクターを理解できるさり気なく良いシーンだと思ったし、ありのままの昭和の時代を描こうという意図がはっきりと感じられるとてもいいシーンだと思った。


  哭倉村は鬼太郎が居て既に廃村になっている現代と、水木と鬼太郎の父の二人が出会う昭和の時代と2つの表情を持っており、哭倉村には何か不穏なものがあるという確信を序盤から察する事が出来るようになっているのだが、昭和の時代で水木が哭倉村に到着した時は不穏な風景は無く、よく日が届く明るい村という風景になっていたのがとても良かった。

  一部を除けばその場所自体におかしな所はなくて、あくまで怖いとされているのはそこに住む人間たちの集団心理なのだという事が分かるのは、水木が龍賀家の広間に入った時に来る哭倉村の住民たちの冷ややかな目線と、幻治たちが捉えた鬼太郎の父をマサカリを使ってその場で斬首しようとするのを止めに入った水木の一言で場の空気が凍りついてしまう、誰もその場で行われようとしていた殺人行為を疑問に思っていない所が象徴的でとても良かった。

  哭倉村の人間は一部だけではなく全員おかしいのだと言う事がここではっきりと分かって、たまらねぇ〜〜と思った。


  それをきっかけに水木と鬼太郎の父は哭倉村の血液製剤Mの秘密に触れていくことになるのだが、水木は南部戦線での経験を元に感じた不平等を何とかする為に自分が成り上がること、鬼太郎の父は行方不明になった妻を探すという目的からブレないのがとても良かった。

  水木は哭倉村の深部に触れていく過程で人並みに葛藤をする事はあるのだが、その葛藤を外部に漏らして告発してやるだとか、それは間違っていると頭ごなしに言ったりせず自分の内側に留めておくのがとてもいい。

  中でも孝三の日記を破り捨てて、日記の内容を頭の中に留めておくのは水木のそういう性格が出ててすごくいいなと思った。

   それはそれとして、重要なヒントになるものを破いて全部頭の中に入れたってセリフを言うの、全オタクが一度はやりたい事ランキングトップクラスに入るでしょと思った。やらないけど出来るならやってみてぇよ。


  あとエンディング後のCパート、墓場鬼太郎の1話に繋がっててすごく良かったんだけど、墓場鬼太郎と明確に違うのは水木が生まれたばかりの鬼太郎を突き飛ばさなかった事で、すごく光を感じる終わり方だった。

  ゲゲゲの謎を見る前に東映アニメーションの公式YouTubeチャンネルが墓場鬼太郎ゲゲゲの鬼太郎TVシリーズの1話を公開してくれていたので、ゲゲゲの謎を見る前に予習してから見に行った。

  中でも2008年にノイタミナで放送された墓場鬼太郎の1話がすごく好きで、人間の心の弱さや幽霊族の鬼太郎と人間との絶妙な心の距離があるようにあるだけという様が描かれているのがとても好きだった。


  ゲゲゲの謎で鬼太郎が片目なのは鬼太郎の母が血桜に囚われていた時に出来た目の傷が引き継がれているような描かれ方があったり、鬼太郎の父が不治の病に冒されていたのは哭倉村の狂骨の影響だった事がしっかり描かれていたのですごく自然な形で納得出来たし、光を感じる終わり方もとてもいいな…となった。


  ところで水木の話ばかりしている事に今更気付いたのですが、水木とても好きです、ハイ。

ワタシ、疲れた男、トテモスキ。

  キャラデザがとにかく良かったり、スーパー絵がうまいアクションシーンの作画も見れたり、公式サイトのキービジュアルのレイアウトが天才過ぎたりいい所がとにかくいっぱいあるのですが、自分にとっては水木がひたすら良かった映画だったと思います。