好きな作品のことを書く : 第四回 FINAL FANTASY XVI (ネタバレ有)

  今回はFINAL FANTASY XVIの話なのですが、プレイ中の事や物語の全容について触れるので、ネタバレについては大きく触れます。

  まだ未プレイでゲームの内容を知りたくない方はお気をつけください。

 

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  FFXVIが発売されてプレイした瞬間これは確実に好きになるという実感を得てから、自分の夏の夜はFFXVI一色になった。それほど面白かった。


  FFの新作が出るというのは毎回とても楽しみな事である。VIIIのCMで流れたeyes on meはもう一生忘れられないし、IXのCMでコカ・コーラとのタイアップのCMがあった時はなんて素晴らしい映像なんだと子供ながら心躍った。


  もちろんそれだけではなく、プリレンダーの美しい映像やキャラクターデザインの良さ、背景の美しさであったり、植松さんをはじめとする音楽の良さだったり、シリーズをすべてプレイしている訳ではないのだが、毎作必ずどこかに好きなものがある。という作品は今になって思えばとてもすごいことだと思った。


  今作は発売前からXIIやオウガバトルのような土の香りがする世界観での物語である事は事前に明示されていたし、どうやら復讐譚が含まれているらしいという事も分かっていたので、絶対好きになるだろうなと思ったらまさにその通りだった。

 

強烈なプロローグで心を一気に掴まれた


  物語冒頭のクライヴがまだワイバーンとして鉄王国のシヴァのドミナントを討伐する任務にあたっていた頃、タイタンとシヴァの召喚獣合戦で変化した地形を滑り落ちていきながら仲間のひとりが落石によって命を落とすシーンがあってから、同じベアラー兵である仲間に引きずられながら血に染まった岩を見つめるシーンであっ、好きかも…。となった。


  巨大な戦場で起きた兵士一人の無惨な死という見過ごされそうな悲劇の一つに遭遇しながらも、仲間の死を見過ごせず、人として自らの無力を責めるクライヴの人間的な面がしっかりと描かれていて素晴らしいシーンだと思った。


  その後の少年期の回想でフェニックスゲートでザンブレク軍の襲撃を受けた際にクライヴとジョシュアの父エルウィンが落命した事をきっかけにフェニックスに顕現したジョシュアをイフリートが何度も殴りつけるシーンでめちゃくちゃに心をえぐられた。

  クライヴのセリフの「化け物め…殺してやる!絶対に殺してやる!」の演技が素晴らしすぎて2023年で一番興奮した。あのシーンはつらいけど正直何度も見たい。


  その後廃墟になったフェニックスゲートにザンブレク兵が現れて、母である筈のアナベラに人を人とも思ってない言葉を投げかけられたり、ザンブレクの兵士に「これからこき使ってやる」と言われながらもジョシュアを想って絶望するクライヴに、このゲームは絶対に好きになるという確信を得た。


  フェニックスゲートのくだりでクライヴの復讐譚が語られるまでという道筋が描かれながら、実はジョシュアの仇はクライヴ自身なのだという事がプレイヤーにのみ明示されていて、その事を知ったクライヴはどうなってしまうのかという事に期待を持たせながら、ザンブレクのベアラー兵となったクライヴがどのような扱いを受けるのか。

  本編では勿論描かれないし、正直あったとしても描かないで想像に委ねて欲しい部分ではあるが、元王族のベアラーという立場というだけで、様々な偏見や"可愛がり"を受けてきたのだろう。

  それでもベアラー兵として生きてこられたのは弟の復讐を果たすという目的があったからなのだろう。という事が全部想像できてしまう素晴らしいプロローグだった。

 

復讐譚から人の情によって生かされる話へ


  物語序盤から中盤にかけて、クライヴの仇は自分自身だったという事をクライヴ自身が認識し、自分を殺せとシドに懇願するが、シドに殴られ自分のために動いてくれている仲間への恩を果たせと言われることでクライヴはその場では思い留まるが、その後の旅路で急流の川を見つめたりすることで自らの命を絶とうとする描写がある。


  炎の召喚獣への復讐という生きる糧を失って、更に弟を殺した罪までも背負わなければならず、まさしく抜け殻となっていたクライヴの心中を察したのか咄嗟にトルガルが止めに入るが、さり気ないシーンながら素晴らしいシーンだと思った。


  仲間から貰った恩に報いるという事を分かっていながらそれでも弟の仇である自分自身を自責する事をやめる事が出来ないでいるクライヴの心情がスイッチが切り替わるように気持ちが切り替わるのではなく、地続きで表現されている事が素晴らしいと思った。


  その後のメインクエストを進めていく上でシドの隠れ家の人間たちはクライヴに対してこれまでと変わらない態度で接してくれる事でクライヴを自然に受け入れられた。

  隠れ家のキャラクター達は過去に何かしらの事情を背負っている人間が多いが、皆それらを気にする様子もなくそれぞれがそれぞれを受け入れているという構図がクライヴは勿論、皆が生きるに足る充分な理由なのだとこの時思った。


  中盤以降クライヴが言っていた人が人として生きられる場所というのは、ベアラーなどの身分制度の撤廃が一番大きいが、過去にいかなる事情があろうともその人の事を受け入れる人間の情によって人は救われるという事がある種の裏テーマなのではないかと思った。

 

物語の中にある苦みの成分がとても好きだった


  発売前からメディアで言われていた事だが、FFXVIのメインスタッフの方々はオウガバトルでおなじみ松野さんの作品が大好きだと言われており、今作も世界観にそれらの要素が色濃く反映されている。


  ベアラーの身分制度や各国でのベアラー差別のわずかな違いや、黒の一帯の侵食によって世界の終末がささやかれながらも国同士の利権争いや領土拡大などによる衝突、個人的な愛憎や野心まで様々な事情が複雑に絡み合い世界のあちこちに人間らしさが散りばめられている。


  特にベアラーの扱いに関しては、人間というよりほぼ道具という扱いを受ける時もあるので苦い思いをするサブクエストや本編中の描写もたくさんあるのだが、貧しい世界で何とか生活しなければならない事を分かっていながらそれでも人として与えられた立場に縋り付きたいという思いがつぶさに描写される事は、物語に苦みを与えて深みを持たせる上でとても重要だと思った。


  個人的な話になってしまうのだが、物語に登場する人物が全員善人で、皆が同じ方向を向いているというのは、自分には合わない(そういった物語でもとても素晴らしいものは勿論あるし、全員善人でも好きな作品はあるので決してダメという話ではない)事が多いので、作品の世界の中にいる人は出来るだけ皆別々の方向を向いていて、時には人同士のもつれや軋轢を描いてくれる方が好きになりやすい。


  そういう意味で悪役の存在や苦い思いをするような出来事はとても重要だと思っており、FFXVIの世界はそのバランスがとても好きな形だったので、プレイをしていて物語にどんどん没入して行けた。


  中でもフェニックスゲート攻略後、ノースリーチが村焼きに遭ってしまう所から、ポートイゾルデに向かう道中で黒騎士の存在が台頭してきた一連の流れは悲しい出来事がとても多くあるが、個人的には苦みの部分をしっかりと描いてくれてとても嬉しかった。

 


遊びやすさと召喚獣に対応したアビリティをビルドする奥深さが面白い


  今作はお話がとても素晴らしかったので、語りたい所があるなら無限に語りたいのだが、システム面でも素晴らしいと思った事が多かったので、一度システムのお話にも触れておきたいと思う。


  FFXVから戦闘はアクションの要素がかなり強くなり今作も同じくアクション性がかなり高い形になっているのだが、敵の攻撃をジャスト回避したりパリィで攻撃のチャンスを作ったりと諸々のアクションを行うための猶予フレームがかなり長めに設定されているお陰ですごく遊びやすかった。


  自分はアクションフォーカスモードで、オートスロウなどのアクセサリーは基本的につけない方針で進めていたのだが、一周目の難易度が体感的にとてもちょうど良く、特にボスバトルはボタン連打してるだけでは絶対に勝てない形になっているのがとても良かった。


  ただ、ストーリーの中盤以降戦いにもかなり慣れてきて自分の戦い方のスタイルが出来上がってくると、敵に応じた立ち回りをループさせるようにして立ち回っていくと少し単調かも…と思っていたのだが、それは自分が召喚獣のアビリティを正しく使いこなせていないだけで、自分自身で単調な遊び方を選んでしまっている事に気付いてからアビリティの構成を見直すようにして、それから戦闘がより一層楽しくなった。

  数個のボタンを決まったタイミングで連打するより、状況に応じて色々なボタンをガチャガチャ押せる楽しさがあって、それらが立ち回り方によって全く別の形に変化することも素晴らしい点だと思う。


 今作は手に入れた召喚獣に応じたアビリティを各召喚獣の固有スキルを除いて2つまで自由に設定することが出来るのだが、アビリティのセット内容によって戦闘時の立ち回り方に大きな変化がある。

  ウィルゲージをなるべく早く削るためのビルドや、テイクダウン時に複数個のスキルを組み合わせて大ダメージを狙うビルドや、接近戦特化、遠距離戦特化など入手した召喚獣によって自らの立ち回り方は様々な形で変化する。


  自分の最終的なビルドは以下のような形だった。

 

  1. フェニックス |  スカーレットサイクロン / ヒートウェイブ
  2. バハムート | インパルス / ギガフレア
  3. ラムウ |  ライトニングロッド / ウィル・オ・ウィスク


  通常時はウィルゲージの削り量が高いインパルスやカウンターのヒートウェイブを中心に立ち回り、テイクダウン時はライトニングロッドを設置した後ウィル・オ・ウィスクを出しながら顕現してギガフレアを撃ち大ダメージを狙う構成で攻略をしていった。

  ライトニングロッドとウィル・オ・ウィスクの性能がとにかく高い。というかこれらのスキルがぶっ壊れだと感じるほど強かった。


  自分よりもっと上手い人はオーディンのぶっ壊れスキルこと境界転移とシヴァスナップを駆使して一度のテイクダウンで120万ダメージを出す人も居るみたいだが、自分はそこまでゲームが上手い方ではないのでインスタントに大ダメージを狙える構成にして攻略をした。


  セットするスキルを覚えたり熟練度を上げるにはアビリティポイントが必要で、色々と試そうとするとすると道中でアビリティポイントが足りない事があるのだが、その際にアビリティポイントのリセットがスキル単位でリセット可能な事で手軽にスキルのビルド変更が出来たのがとても素晴らしい点だと思った。


  他にもマップ探索中のナビゲーションだったり、サブクエストが受注できる期間がとても長かったりシステム面で素晴らしい所はたくさんあるのだが、特に素晴らしいと感じたのがアビリティ周りの所だった。

 

悪役が魅力的なのが素晴らしい


  今作の悪役と言えば物語の進行度合いによって色々と変わるのだが、代表的な人物と言えばクライヴとジョシュアの母であるアナベラだろう。


  本編を通してかなりのヘイトを買いやすいキャラクターで、フェニックスのドミナントではないクライヴを価値なしと見限ったり、フェニックスゲートの騒乱を起こした張本人でもあり黒騎士を使役してベアラーを虐殺したりまあやること為すこと役満クラスに酷い訳なのだが、最終的に彼女も一人の人間だったのだという結論に至れるような道筋が描かれていたのはとても良かった。

  アナベラがこれまでやってきた事はまあ人として許せない事ばかりなので、好きになった…と言われると違うかもしれないが、アナベラの人間らしさの部分は共感できる所があるかもしれない。という方が近いかもしれない。


  アナベラは血筋や立場に強く固執し、逆にベアラーや立場もしくは力無き者に対しては穢れた者という意識を持ち、価値なしと判断すれば相手がいかような立場の人間であれ、断罪する。

  ザンブレクにその身を移してから神皇シルヴェストルとの間に産まれたオリヴィエに心酔し、オリヴィエをザンブレクの神皇にすべく暗躍する。


  アナベラがザンブレクに身を移してからオリヴィエに心酔するまでの一連の流れがアナベラの人間性の部分を強く感じる所が随所にあり、とても良い味を醸し出していた。

  アナベラ自身はまあヤバい奴に変わりはないのだが、結局の所自らの血筋に強いこだわりを持ち自らが完全に納得する形での子供を産み育てたかったという欲求に支配された小さな人間で、ベアラーに対する強い差別意識や、アナベラの中で言う出自に陰りを持つ人間を見下すというのは全て自分の欲求の裏返しだったのだと、クリスタル自治領の攻略時に強く思った。


  明確に描かれる訳では無いが、シルヴェストルとアナベラ、オリヴィエの関係性はとても良い。

  シルヴェストルの子、ディオンが昔の優しかった頃の父様にこだわっている中でシルヴェストルは自身の孤独を感じておりその孤独にアナベラが入り込みシルヴェストルの孤独が曲がりなりにも癒やされてオリヴィエに対し新たな愛情が産まれたという昼ドラよろしくドロドロ構図は個人的にとても好きだし、この話がもし掘り下げられる機会があるならどんどん見たい。


  ここからは個人的な推察でしかないが、ディオンは側近のテランス(男性)と恋人の関係にあり、シルヴェストルとしても納得はしていたが、ザンブレク神皇の跡継ぎをどうするかという点で新たな子供を成す事に焦っており、そこへアナベラが現れたことでお互いの利害が一致した…ということなのかもしれないし、そうではないのかもしれない。


  あくまで推察で事実ではないのだが、本編中はあえて描かれないことを残してくれているお陰で想像でものを埋める楽しさや、ゲームをプレイしていない時でも描かれない部分に対して考えを巡らせることも含めてとても楽しかった。

 


好きなキャラクター


バイロン一択。


  登場時の劇の再現シーンで一気に心を掴まれた。あれはずるい。

  その後もダリミルの酒場で一悶着があった際には急いでスープを飲み干してヒゲにスープをこぼすし、そそくさとカウンターに隠れたかと思えば自分のパンと水をしっかり取りに行くし、お茶目な要素に欠かさないこのゲームの真のヒロインといってもいい程のかわいいおじさん。


  甥であるクライヴを溺愛しているが、過剰に可愛がるという事はなく、むしろ可愛い甥が生きていたからこそ甥に間違った生き方をして欲しくないという態度を一貫して描いてくれたのが非常に好感を誘ってくれるし、大金にものを言わせて物事を解決しようとする様も嫌な印象を与えない。


  FFXVIはクライヴが既に33歳でその周囲も20代後半〜50代までと大人が非常に多いが、バイロン程の年配のキャラクターの描き方がとても良い。

  過度に干渉しようとせず老婆心を見せる事もせず、共感できる事には背中を押してくれるある種理想の大人像として描かれている。

  年配になった時に自分がどう生きれば良いかという不安や悩みは尽きないものだが、こういった素敵な大人がエンタメ作品に居てくれることはある種の救いにもなったりする。


  2000万ギル分の私財を売り払って甥にドンと引き渡せるような心の持ちようは限られた人にしか出来ないだろうし、なろうと思ってもそう簡単になれるものではないが、バイロンのクライヴ達に対する接し方は一人の大人として見習いたいと思った。


  でもほしいと思った時に駆け付けてギルで解決してくれる様は本当にドラえもんのようだと思った。服青いし…。

 

エンディングの解釈


  初見の時はクライヴのみ生き残って、アルテマが作った理をオリジンもろとも破壊し、片手を石化させながらも生還したと思った。…と思ったのだが、いかようにも解釈出来そうなので、感想というよりは考察という形になる。


  エンディングで誰が生還して死亡したかを考えるには以下の要素が挙げられる。

 

  1.   アルテマが使おうとしたレイズをクライヴが使ったかどうか
  2.   エピローグの本の著者がジョシュアな点


  本の著者がジョシュアの名前になっている点は、初見の時は生還したクライヴがハルポクラテスと共にジョシュアが遺した手記を元に物語を執筆し、ジョシュアの名前で世に出したと思った。


  ただ、アルテマを倒した後クライヴがレイズを使っていたのなら本の著者はジョシュア本人となり得る。


  クライヴがレイズを使ったかどうかという明確な根拠はあまり無いのだが、アルテマの力をも吸収したこと、クライヴがフェニックスの力で一度死んだジョシュアの傷口を塞いでいた時はまだジョシュアの死を受け入れられないように感じた(これはクライヴがどうという話ではなく、普通に誰でもすぐには受け入れられない)

  また、浜辺に打ち上げられたクライヴの片手が石化していた事が挙げられる。アルテマ戦で相当消耗していたにも関わらずアルテマ戦後はまだ石化の兆候は見られなかった。

  クライヴの手の石化はアルテマが作り出した理を焼き尽くす為に使ったか、もしくはその過程の一部でレイズも使用したかの二通り考えられる。


  レイズはアルテマが言っていた通りマザークリスタルからエーテルを収集しなければならないほど大量のエーテルを消費するとされているので、手の石化がレイズによってもたらされたものと考えても不自然ではない。


  仮にレイズを使っていたとしたら、可能性として考えられるのは二通りある。

 

  1.   全員生存説
  2.   クライヴ以外全員生存説


  気持ちの面では正直全員生存していて欲しい。特にディオンに関しては自らの贖罪をするという事に固執していたが、それは生きながらえてこそという所があるので、生きていて欲しい。

  レイズを使っていなかたっとしたら、重傷を負いながらも何とか生還したか、既に死亡しているかの二通りになるが。


  ただ、前途に挙げた通りクライヴの性格がかなり自己犠牲的なので、浜辺に打ち上げられて石化した片手をガクッと降ろした時点で落命している可能性もかなり高い。

  人として全員生きていて欲しいが、クライヴのみ死亡説は正直ちょっと好きな線ではある。


  ジルを未亡人にするつもりかお前!という感情はちょっとありますけどね。

 

  長々と書いてしまったが、非常に好きなEDだったし、こういう事をあえて想像できる余地を残してくれた事に感謝しかない。正直あのEDでどうなったか知りたい気持ちもあるのだが、公式側から答えを一生明示しないままで居て欲しいと思った。


  ここには書いていないが、フェイシャルのキャプチャーによる役者さんの演技だったり、吹き替えの声優さんの演技だったり服の意匠の作り込みや背景で割と立派な城にもちゃんと木で組まれた無骨な足場があったりと素晴らしかった点を挙げたらキリが無いのだが、今回はここまでにしようと思う。


  FFの事を好きでいて良かったと本当に思ったし、今年の夏の夜をずっとFFと過ごせた体験はとても良いものだった。